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駐車場に広がる輪:テキサスの教会の庭で、盆踊りが「観る祭り」から「踊る体験」に変わる夜

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駐車場に広がる輪:テキサスの教会の庭で、盆踊りが「観る祭り」から「踊る体験」に変わる夜

7月の終わり、テキサス州オースティンの郊外。教会の駐車場に、太鼓の音が夜空に響きます。YAGCD(やぐら)と呼ばれる仮設のやぐらの下では、地元の和太鼓グループがビートを刻み、その周りを内側と外側、二重の輪がゆっくりと回っています。

見渡すと分かるのは、この輪の「なんでもなさ」。着物姿の日系のおばあちゃんの隣に、ブーツを履いたテキサス訛りの青年が。その隣には、スマホで動きを録画しながら一歩遅れて踊る韓国系アメリカ人の家族。誰も「上手」を競っていません。全員がただ、同じ方向に、同じリズムで、回っているのです。

「観る」から「踊る」への転換点

長年、アメリカで開催されてきた日本文化イベントの多くは、桜まつりにしろアニメコンベンションにしろ、基本的に「観る・買う・食べる」が主体でした。ステージの上で披露される踊りを、客席から眺める。それが日本文化体験の標準形でした。

ところがここ数年、盆踊りだけが様相を変えています。カリフォルニアではショッピングモールの駐車場が会場になり、テキサスでは教会の庭にやぐらが組まれる。主催者の一人、カリフォルニア在住の田中さん(仮名)はこう語ります。

「日本文化フェスティバルだと、来場者は『消費者』なんです。でも盆踊りは違う。輪に入らなければ、盆踊りじゃない。参加しない限り何も始まらない。それが一番大きな違いですね」

実際、オースティンの会場では最初の曲が流れると、スタッフが「輪に入って!」と声をかけ、少し照れくさそうに手を引いて参加者を輪に誘い込みます。慣れない手つきで踊る人たちの輪が、一曲ごとに少しずつ大きくなっていくのが見えます。

日本語が分からなくても、輪には入れる

盆踊りには、よくある参入障壁がありません。日本語が分からない。歌詞を知らない。踊りを覚えていない。それでも輪には入れます。

日系二世のマリアさん(60代)は、幼い頃から地元日系教会の盆踊りに慣れ親しんできた人です。「うちの親は日系人コミュニティの盆踊りに連れて行ってくれました。当時は日本語が話せない私たち二世にとって、踊りは『言葉の代わりの会話』でした。今、その輪に全然違うバックグラウンドの人がどんどん入ってくるのを見ると、なんだか嬉しいですね」

多くの会場では、踊りの「手本」を示すリーダーがやぐらの上や前方に立ち、参加者はそれを見ながら動けばOK。振り付けはシンプルで、手拍子や拍手が入る曲も多い。さらに近年は「ソーラン節」や「東京五輪マラソンソーラン節」など、テンポが速くてノリの良い曲が若者に人気で、SNS映えもすることから、若い世代の参加を後押ししています。

「難しいことを説明しなくても、隣の人と同じ動きをすれば、自然と会話が生まれるんです」と田中さんは言います。「『次の曲、どんな振りだっけ?』って聞き合う。それがきっかけで、初対面同士が友達になる。盆踊りは、コミュニティを作る装置なんです」

教会の庭、モールの駐車場――新しい会場の意味

注目すべきは、盆踊りが「日本町」や「日本人学校」といった従来の日本系コミュニティの拠点を飛び出し、アメリカの日常生活のど真ん中で開かれるようになったことです。

テキサスの教会が会場を提供するのは、単なる貸し場所の話ではありません。地元の教会コミュニティと日系コミュニティの接点が、盆踊りをきっかけに生まれているのです。モールの駐車場での開催も、買い物に来た「まったくの部外者」がふと立ち止まり、輪に引き込まれるきっかけになります。

「モールでやると、通りすがりのお客さんが『なんだろう?』と見に来て、そのまま輪に入ってくれることが多いんです」と田中さん。「広告で集めるより、好奇心で集まる人のほうが、長く続くんですよ」

回り続けることで生まれるもの

夜が更けてくると、輪はゆっくりと回り続けます。誰かが間違えた振りをしても、誰も気にしません。輪には「間違い」がないからです。全員が同じ方向に回っていれば、それで輪は成立する。

これは、アメリカという多文化の土地でコミュニティを作る上で、実は重要なヒントかもしれません。言葉もルーツもバラバラな人たちが、一つのリズムに合わせて回る。完璧じゃなくてもいい。輪に入ること自体が、もう参加なんです。

盆踊りが「観る日本文化」から「踊る共同体験」へと変わろうとしている今、その輪が次にどこで広がるのか。もしかしたら、あなたの街の駐車場かもしれません。

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