「推し」にお金を使うことが、アメリカの若者文化を動かしている
Photo: Antonio Tajuelo from Tokio, Japón, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
レジの前に並ぶ、新しい「推し活」の風景
ロサンゼルスのリトル東京にあるアニメグッズショップ。平日の昼間にもかかわらず、店内はスマートフォンを手にした10代〜20代の客でにぎわっている。棚に並ぶのは、日本のアイドルグループのアクリルスタンド、人気アニメのランダムアクリルキーホルダー、限定版のトレーディングカード。レジには「推し」のグッズを山積みにしたバスケットを持つ人が列を作っていた。
「推し活」——好きなキャラクターやアーティストを応援するために時間とお金を使う文化——が、いまアメリカで急速に広がっている。かつては日本文化に詳しいコアなファン層に限られた現象だったが、ここ数年でその裾野は明らかに広がった。SNSの普及、K-POPの影響によるコレクション文化の浸透、そしてパンデミック後に加速したオンライン購買——複数の要因が重なって、「推し」にお金をかけることは、もはやニッチな趣味ではなくなりつつある。
数字が語る「推し活」マーケットの規模
リサーチ会社Grand View Researchの試算によると、北米のアニメグッズ市場は2023年時点で数十億ドル規模に達しており、今後も年率10%前後の成長が見込まれている。AmazonやeBayでの日本グッズの取引量も増加傾向にあり、特にトレーディングカードやフィギュア、ぬいぐるみカテゴリーでの伸びが顕著だ。
より象徴的なのは、大手量販店の動きだ。TargetやWalmartの棚には、ポケモンカードやサンリオグッズがごく普通に並ぶようになった。Hot Topicのような若者向けチェーンは随分前から日本のキャラクターグッズを扱っているが、最近ではUrban Outfittersのような「おしゃれ系」セレクトショップにもサンリオやジブリのグッズが登場している。「推し活グッズ」は、サブカルの棚から生活雑貨の棚へと移動した。
ランダム性と「開封体験」がドライバーになる
推し活経済の面白いところは、「何が入っているかわからない」という要素が消費を加速させている点だ。日本でおなじみのブラインドボックス(中身が見えない箱型パッケージ)や、ランダム封入のトレーディングカードは、アメリカの若い消費者にも強くハマっている。
TikTokやYouTubeには「開封動画」があふれ、何千万もの再生回数を稼ぐコンテンツになっている。「何が出るかわからない」スリルと、「推しが出た!」という達成感——この体験をシェアすることが、SNS上のコミュニティをさらに活性化させる。ガチャやくじ引き文化は、エンターテインメントとショッピングの境界線を曖昧にしながら、消費の動機をゲーム的に変えた。
ニューヨーク在住の大学生、Mikaさん(21)は「毎月の推し活予算は決めてる。でも限定グッズが出たら、ちょっとオーバーしちゃうことも多い」と笑う。「友達とグッズを見せ合ったり、被ったものを交換したりするのが楽しい。モノを買うだけじゃなくて、それがコミュニケーションになってる」。
プラットフォームの進化が購買の敷居を下げた
日本のグッズをアメリカから買う手段も、ここ数年で格段に増えた。AmazonのJapanese importセクション、Mercari USの日本語カテゴリー、Buyee(国際転送サービス)、さらにはDiscordやRedditのコミュニティを通じたユーザー間の取引——物理的な距離が、ほとんど障壁にならなくなってきた。
日本のグッズメーカー側も、この変化に対応し始めている。ポップアップイベントの海外展開、英語対応のオンラインストア開設、アメリカのインフルエンサーとのコラボ——グローバルな「推し活」市場を意識したビジネス戦略が、各社で加速している。
アニメコンベンション(アニメコン)もこの流れを後押ししている。Anime ExpoやAnime NYCといった大型イベントでは、グッズ販売スペースがコンベンションの重要な収益源となっており、毎年規模が拡大している。会場に並ぶ長蛇の列は、「推し活」がいかに本気の消費行動として根付いているかを物語っている。
「好き」を肯定する文化が、消費の意味を変える
推し活がメインストリームに広がった背景には、「好きなものに正直にお金を使うこと」への肯定感の高まりもあるように見える。かつてオタク的とみなされた行動が、今や「自分らしいライフスタイル」として語られる。ウェルネスやセルフケアのトレンドと地続きに、推し活を「自分を幸せにする投資」として捉える若い世代が増えている。
もちろん、課題もある。限定品の転売問題、過剰な消費への反省、コレクション品の保管スペース問題——推し活コミュニティの中でも、「どこまで使うか」という自問は続いている。
それでも、「推し」の存在が日常に活力をもたらしているという声は多い。Mikaさんは言う。「推しのグッズを部屋に飾ってると、なんか頑張れる気がする。変かもしれないけど、それが私にとってのリアルな話」。
日本発の「推し活」という概念は、アメリカの消費文化に静かに、しかし確実に根を張っている。その経済圏は、数字以上に、人と人のつながりと「好き」の感情によって動いている。